私ども株式会社山下ミツ商店には、「ミツの心【MITSU-ISM】」という企業理念があります。
『願い』『誓い』『お約束』の3つから、成り立っています。その中の『お約束』の2条で、「国産大豆を消泡剤を使用せず炊き、天然にがりだけで固めます。」と謳っています。
前回は、私が家業を継いだ20年前当時の、山下ミツ商店の豆腐の現状と、その中で国産大豆に関心を持つようになったきっかけを書きました。今回は、早速国産大豆を仕入れてからの話です。
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「美味しい豆腐作りは国産大豆!」と単純に思い込んだ私は早速当時お付き合いしていた大豆問屋さんに国産大豆を注文しました。
「産地品種は?」
と聞かれましたが、「とにかく国産大豆で豆腐を作ろう」と思っただけで、そこまで考えていませんでしたので、何も答えることが出来ませんでした。
「地元北陸で採れるエンレイという大豆が豆腐には良いですよ」
と大豆問屋さんに教えていただき「じゃあそれお願いします」と1袋(30kg)注文しました。
翌々日エンレイが届きました。
納品書を見てびっくりです。
当時、私共が仕入れていたアメリカオハイオ産大豆に比べて、値段が三倍もしたのです。
「こんなに高くては豆腐を作れない。どこの豆腐屋さんも国産大豆を使わない訳だ」と、意志の弱い私は国産大豆で豆腐を作ることに、二の足を踏むようになりました。同時に、ほとんどの豆腐が、輸入大豆で作られている事に納得してしまったのです・・・その場その場で直ぐ気が変わる、いい加減な男です。
それでも「このままでいいのだろうか?」という疑問や不安を拭うことが出来ず、悶々とした日々が続きました。そんな時、ある取引先の方から「埼玉に茂木さんという良い人がいるよ」と、もぎ豆腐店の茂木稔社長(現会長)を紹介していただいたのです。
「良い豆腐を作る人がいるよ」と言わず「良い人がいるよ」と言うのが、今思い出しても面白く笑ってしまいます。
そして、今でも通い続けている、箱根での商業界ゼミナールの前日に、茂木さんを訪ね工場を見せていただき、豆腐作りのイロハを教わりました。家を継ぐ前に、何処かの豆腐屋さんで修行をしたわけでもなく、自分の家の工場しか知らなかった私にとって、もぎ豆腐店さんの工場は「自分が今やってる事はいったい何なんだ?」と、これ以上無い位強烈なカルチャーショックを受けました。
茂木さんは言いました。
「アメリカ産の大豆は豆腐を作るためではなく、大豆油を搾るために栽培されているのだよ。だから、豆腐にして美味しいわけないよ」と・・・ 単純明快、抜群の説得力です。
茂木さんは大豆だけでなく、凝固剤と消泡剤についても、解かり易く教えて下さいました。
この茂木さんとの出会いが、その後の山下ミツ商店の、豆腐屋としての方向性を明確にしてくれるのです。(つづく) |