荒井美樹
(以下荒井)
「男前豆腐」ができたいきさつをお聞きしたいのですが・・・。
伊藤社長
(以下伊藤)
そうですね。まず原料にこだわりました。
そいった部分では、憧れの豆腐屋さんはあったのですが、当時の売り先は安売りのスーパーだったので、同じような商品を作っても、当時売り先が無かったんです。
ただ、国産大豆がちょうど安くなったところだったので、今作らなくちゃどうするといった感じで、そこから男前豆腐に繋がっていったんです。
でも、手間もかかるし、当時は300円という売価設定で、まわりからは「なにを考えているんだ」とか言われましたけど、そこをねじ伏せていって世に出たんです(笑)。
荒井
なるほど。「男前」というネーミングはどこからきたんですか?
伊藤
豆腐を、時間をかけて水を切らせるということをしたくて、ざる豆腐を研究していたのです。
でも、ざるはあまりにも高いし、殺菌もしなくちゃいけないからむずかしいな、と・・・。
それで、容器でなんとかできないかと思って、容器の図面を書いて机にずっと貼っておいたんですよ。で、1年ぐらい経ってから、「よし!これやってみよう」と思って型を起こして、その時、『水もしたたるいい豆腐』ということで、男前豆腐という名前にしました。
荒井
なるほどー!。
伊藤
もう、瞬時に繋がったんです、このネーミングに!。
荒井
このパッケージの中で水を切っているんですよね。
伊藤
そうです。このパッケージが水を切る構造になってるんです。
そうそう、お客様から「売り場で、男前豆腐を立てて陳列していた!」と、お怒りのメール等がきてね。「売っている人達が意味が分かってない!」とか(笑)。
立てちゃうと水を切ったことにならなくて、水に浸かっちゃうんです。だから男前豆腐は、絶対寝かした状態で陳列しなくちゃいけないでんす。
未だにメールがきますね。
このパッケージを作るのが大変だったので、充填豆腐を研究しようと思って、次に挑戦したのが、ジョニーですね。
荒井
なるほど、そこから充填豆腐の「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」が生まれるんですね!
山下浩希
(以下山下)
この「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」のパッケージはサーフボードですか?
伊藤
そうです。当時はフランスパンとかサーフボードとか、とりあえず長いものを作りたかった。
山下
そうだったんですか。
そこまでの発想はわかるんです。ただ次に、売り場に並べにくいなとかとか考えて、僕だったら引いてしまうんですが…。
伊藤
当時お正月になると豆腐の売り場って、伊達巻に占領されるんですよ。
だから長いから並べつらいとか、色々言われたのですが、伊達巻も長いよね~?と思いまして(笑)。
伊達巻がそうなんだしと思って、底が丸くて転がりやすいんですけど、僕の中ではこう、すくって、つくねみたいなイメージもあったんで、あえてそのままつくりました。
50円の豆腐4段重ねて売るんだったら、198円の売るんだと思いまして。そうしないと目立たないんですよ!うまく入れ込んで陳列されちゃうと目立たない。
バイヤーに、あー言えばこう言うとか言われたんだけど(笑)。売れたからよかったけど、売れなかったらもう来るなって感じで(笑)
荒井
男前とジョニーの原材料は一緒なのですか?
伊藤
今現状では一緒です。製造方法で味の違いを出しています。
山下
ポン酢も研究されて作られたのですか?
伊藤
ポン酢は、特長のある商品であればセレクトショップで売ればいいのですが、関西は皆ポン酢にうるさいので、そういう意味では、一番すっぱいのにしました。はぁ?って思うほどすっぱいのにしました(笑)。あと、納豆も売っていますよ。どこよりも粒が大きいのにしようとこだわりました(笑)。
荒井
こだわりますね~。では、この3連ちゃんを出されたのは、どうしてですか?
伊藤
そうですね。ポッキーみたいな(笑)。アイスのパピコみたいな(笑)。3個パックが非常に根強かったので、ジョニーもこのままやったらなと思って。
荒井
なるほどね。縦3段じゃなくて、横にくっつてるのが面白い。 あと、このパッケージ(マブ)にはびっくりしましたね!飲み物かとおもいました!
伊藤
このパッケージは目新しい物ではなくて、飲料の売り場に行けば腐るほどある容器なんですよ。
この容器も飲料メーカーさんのものを転用して、フタだけ業者さんに作ってもらったんですよ。
このフタがあるからこそ僕はきちっと認識してもらえるんではないかと思いました。
フタの掘り込みの深さとかこういう部分はマニアックにこだわってみました。
あと、どうせ印字のシールは貼り忘れるだろうなと思ったし、ドット系のものだと間違いなく印字忘れるなと思って、トップシールで貼るのにしました。
山下
考えられているんですね~。今豆乳はやってないのですか?
伊藤
豆乳は今度出してみようと思ってます。
以前「豆乳ロケンロー」って出していたんですが、中で固まっちゃうんですよ。
理由が分かったので、今度出してみようと思って、準備しています。
ただそんなに大量に出すのもではなくて、ジョニポンみたいな感じで、12個くらいで少し並べばいいかなと思っています。コアなファンの方のために(笑)。
豆乳って、下手したら、今スーパーマーケットプライスでいくとジョニーより全然安い。1Lで200円を切っている。1Lで200円切るって、500g100円の豆腐。250g 50円の豆腐を作っている事と同じです。濃度下げないと絶対にあの値段にはならない。豆乳は違うものとしてやらなくてはいけないと思っています。
初期投資が高いと豆乳も死んじゃうな~と思いまして、ちょろっとやってみようかなと思ってます。
荒井
なるほど。スーパーに行って、新しいパッケージのが出ていたりすると絶対に買おうと思うし、楽しみですねぇ。
伊藤
いやぁ怖いですよ!それでたいした事なかったら…。だから新商品に期待してくれるのは嬉しい半面、自分に対してのダメ出しも多いです。
荒井
ある意味それも挑戦で楽しそうですけど。
荒井
伊藤社長の考え方の基本として、常に周りとは違ったものという切り口から考える、というのがあるんですね。
伊藤
今までと違うもので、今までより美味しいものをずっと探しているのかもしれませんね。
そのネタが見つかるまでが大変でですね!本当に試行錯誤、試行錯誤しましてね。
でも、新しい味を見つけて世に出すということは、変わらずやっていこうと思う。
”フィルム変えた”とかだけだと、お客さんはせっかく期待して買ったのにマサヒロと同じ味じゃんって思う。多分絶対ブログに書く人が出てくると思う。グラム単価と合っていないとか言う人がいる。
新商品は自分でもこれは出したいなと思うものじゃないとだめ。味を決めてから、今まで考えていたネタをその商品にどさっと載せる感じ。
荒井
新商品の開発の時って、味の事を考えて、製造方法を考えるんですか?
伊藤
製造方法を考えて、どうやったら面白いものができるのかを考えます。
選択する大豆と加工方法を考えながら何度も繰り返しする。失敗した様に面白いものが出来上がる事もあるんですよ。
大体頭の中で考えて、シュミレーションして、皆で作る。
思ったようにいった場合を積み上げていくのですが、マブは凝固不良で失敗と思っていたんです。
最初「失敗しました。全然かたまりません」といった感じだったのですが、固まるかもしんないよ」言って、ドロドロのものを盛り込んで、きちっと冷やしてみたら固まって、その食感が、僕が今まで作った豆腐の中では初めてだったので。これは紹介しようと思い、決めました。
荒井
なるほど。
伊藤
うまいものが出来てから、容器とか名前を一気に考えるんですよ!同時進行もありつつ。
山下
それにしても、オリジナルの型を作れるだけの規模というのは魅力的ですね。容器にしても僕は絶対出来ない。
伊藤
最近は容器を作ってくれるんですよ。
型代も払うんですけど。
数を作るから、型もできると。
お玉豆腐は一応いちごパックを使って、なんとかオリジナルの色を出す方法を考えたりもしたんです。
ただ、パッケージとかは、ミツさんのサービススタイル「豆腐は絶対こうあるべきだ」というのできちっと居座って、その中でやって欲しいと思う。
その中でうちと対比して、チャラチャラ系とズッシリ系で分かれて(笑)。
でも本質は、中のところは、一緒なんだと。
ラーメン屋ではないけど、いろいろな切り口があっていいんじゃないかな、と。町場の豆腐やさんとか、ほんとカッコイイと思いますもん。
荒井
変わっていけるって凄いですよね!変化し続けていく、でも変わらない豆腐への思いとか大豆の選択とか作り方のこだわりとかは、ずっと変えていかないのだと思うんですが、その辺はどうですか?
伊藤
僕の場合は、作り方を見つけると今までのもの変えますよ。
もの凄い勢いでマイナーチェンジしてしまうので、いいものを見つけると、その造り方になってしまうんですね。だから微妙に味は変わっていっています。
山下
結構、変えてっているんですか?
伊藤
はい。凄く変えていっています。男前を変えて、それがマブになった。その製法でもう一度充填を見直したりとか、色々やってます。
新しくなりましたとかは、公には言いませんけどね。
どんどん変えちゃって、久しぶりに食べると美味しくなっているじゃんて思われたり、もちろん前と変わったという人もいるんですけど、僕はそこらへんをどんどん引っ張っていこうと思っています。
自分がいいと思ったものを出して行きたいと思います。
荒井
そのときの最善のものを出していけたらいいですよね。
伊藤
言葉のこだわりと、味のこだわりと、見た目のこだわりと、それをミックスさせて遊び心入れながら本気で作ってます。
山下
商品は総合力ですからね。ネーミングは全部伊藤社長が考えているんですか?
伊藤
ネーミングに関しては、面白いくらいわがまま言わせてもらっています。社長になって良かったなぁ(笑)。
山下
若い人にこれだけ豆腐を知らしめたのって、ないんじゃないかと思うんですよね。
伊藤
ありがとうございます。その代わり、年配の人からは跳ねられたかもしれませんがね 同世代の人には豆腐って面白いし食べてみない?っていうことは出来たと思います。
山下
豆腐って「面白い」という概念がなくて、米と同じような間隔で、当たり前にある、という感じだったので、 自ら面白いものを選んで食べようとか、新しい物が出たら食べようとかっていう類のものではなかったと思うんです。
伊藤
豆腐でナンパしたようなものですよ(笑)
荒井
ははは。その辺山下ミツ商店はどうですか?
山下
僕のところはあれしかないからな~。
伊藤
そこがかっこいいと思う。ミツさんとうちみたいなところが組んだら一番売り場が良くなるんじゃないですか?本格嗜好で。
歴史があって、それがきちっとストーリーになっているから僕はかっこいいと思います。
山下
そうですね、歴史は大切にしたい。。
伊藤
僕は豆腐業のチャラチャラ部分担当で。
山下
いやいやいや~(笑)。
伊藤
男前とジョニーはブームが1回終わっているので、次々出していってって新しい事に挑戦するから、150円から320円まで色々幅があるわけで。
いつまでも高級豆腐といってられないな、と(笑)。
やっぱり中身替えて味変えて、形も変えて、量的にもやってよかったですね
山下
それにしても、男前豆腐店が出てきたことは、豆腐業界的にはいい話ですね。
伊藤
でも皆さんお豆腐の値上げするらしいですよ!
荒井
国産大豆が高いからとかではなく?
伊藤
外国産大豆が値上りしたんですよ。逆に国産大豆は上げる理由がないといった感じ。
でも、国産が国産で、もしものことがあったらと思って、自分なりに技術を磨いているつもりなんですよ。
それを外国産に適用して、もし国産大豆が使えなくなったら、外国産を利用してでも、何があっても豆腐を作り続けていこうと思っています。
そういう意味では今は北海道大豆で遊ばせてもらっている。
今後手のひら返したように、外国産が来るかもしれないし。「落とし前豆腐店」という名前をつけたりしちゃったりして(笑)。
山下
僕は企業理念で国産大豆しか使わないと明文化したので、4年前苦しみましたよ!結果的にはこのままやり続けて良かったなと、信用だけは繋がったなと思って。
最初これを明文化した時、出す必要がないのではないかと社内でも話があったんですけどね。
自分との約束だから宣言しようと。
伊藤
やっぱり国産大豆オンリーってのは絶対いいと思う。
確かに、安い外国産大豆で安い豆腐を作った方が、精神的には安心するんですよね。工場でバカバカ作っていく方が心が落ち着くし、低経費の効果が出ますよね。
でも僕は国産大豆でいこうかな、と。
ブランドを立ち上げる重要な1年2年なので、男前豆腐を、一生懸命、国産大豆で作ろうと。うちも全面的にやめたのは3月からなんですよ。
山下
それまであったんですか?
伊藤
はい。製品には混ぜてません。全然違うラインの安い豆腐があったんです。
この工場は天狗さんからの引継ぎなので、その豆腐を作っていました。僕は、一日も操業止めてないので、通常の売上を上げるために外国産の商品を一応作っていたんです。
山下
全く別のものも作りながら、開発もされていたんですね。
伊藤
そうですね。それで資金繰りをしながら、外国産を減らしていったんです。あぶらあげもがんもも一回やめちゃってたんですけど、あぶらあげはもう一回作ろうと思って、今度ラインを戻そうかな、と思ってます。
山下
男前豆腐とジョニーは、ある意味日本で初めて全国くまなくブランドとして広がっていった商品かもしれませんね。 今まで豆腐ってブランドがなかったですよね。
伊藤
いえいえブランドはきちっとありますが、とりあえず僕が工場を買っていったのは、新商品出すと、北海道から沖縄まで全部並ぶからなんですよ。やっぱり物を作っていく上で大切にしているんですよ。やってみたかったことなんですね。だけどシェアの何%と、いう意識はないんですよ。
荒井
現在、全国に4工場でしたよね。
伊藤
はい。青森、山梨、茨城、京都に工場があります。 新しい工場を買って、中身を改装して使っています。
山下
スタッフはどうするのですか?
伊藤
その時(前工場)のスタッフです。
山下
それでうまくいきますか?
伊藤
機械も回収し、同じ労力でもつくり上がるものが違いますから、そういう意味ではいい成功体験が、僕の経験値も確実に4倍になっている。
毎日失敗していますから、いろんな工場で(笑)。その度にすっ飛んでいってます。昨日までは青森だったんですが、今日ひとつ事件があって、みんな今は緊急で茨城に飛んでいます。そんなこんなで色々研究は重ねてますね。
山下
これからも期待できそうですね!楽しみですね!
伊藤
刺激がないとと死んじゃう(笑)。
面白いものをどんどん探していかなかないと、本当につまらなくなって、いやになっちゃうんですね。
その為だったら大変でも、なんでもやりますよ。
荒井
さっきも電車の中で山下社長に聞いていたんですが、毎日同じ豆腐を作るわけですよね。それって飽きたりしないんですか?
伊藤
全然同じ毎日ではないですよ。隙があれば、工夫をしていきたいという気持ちで、何とかならないかなという気持ちでやっているのが、楽しいですね。
山下
本当は美味しくて、安定させなければならない。でもなかなかならないのが、はがゆいんだよ。
伊藤
大豆は野菜だと考えると、日本全国1年中、365日同じ人参を食べれないのと同じです。
大豆は野菜なんだよな。
最近気づいたんだけど、同じ品種でも味が違うんですよね。
採れた場所で味が違う。
そこを攻略しながら挑戦するのが楽しいんですけどね。
・・・第3章へ続く。
伊藤信吾社長 男前豆腐店株式会社 代表取締役社長 〒629-0101 京都府南丹市八木町船枝滝ノ方50番地 TEL:0771-42-4511 URL:http://otokomae.jp/ |
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山下浩希 株式会社山下ミツ商店 代表取締役 〒920-2501 石川県白山市白峰イ23 TEL:076-259-2024 URL:http://www.mitsu102.co.jp/ |
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荒井美樹 株式会社IBLAB コンテンツディレクター 〒920-0043 石川県金沢市長田町1-7-21 越田ビル3F TEL:076-234-5554 URL:http://www.iblab.jp/ |